国際婚姻譚

自宅の縁側で庭を眺めながら茶をすするご隠居。そこに八つぁんが息せき切って登場。


八「ご隠居、ご隠居。てえへんだてえへんだ。」

ご「なんだいなんだい、こんな春の穏やかな朝に。てえへんだの高さだの割る2だのって」

八「なんだい、その割る2ってのは。」

ご「冗談だよ、面積の公式・・・」

八「ご隠居、からかっちゃいけねえ、いくらあっしに学がねえったって、面積ぐらいは学校で勉強したよ。オトナになってすっかり忘れていたけれど、せがれの宿題の面倒を見るときに・・・」

ご「えらいねえ、ちゃんと子どもの勉強を見てやっていたのかい?」

八「最初はそのつもりだったんだけど、最近の学校はあっしが勉強したときとは教え方がどうも違うみてーで、じょーてーだのかてーだのって四の五のぬかすから、面積にかてーもやわらけーもあるかってんだ、てやんでい、と・・・」

ご「なんだい、おまえさんも分からなかったのかい。」

八「あっしは算術は得意だったんだけど、洋風の算術はどうも苦手で。女房にせがれと一緒に教えてもらったのよ。」

ご「ははは。おたくの奥さんは良妻賢母だね。」

八「あー、うっ!」

ご「そりゃマンボだよ。」

八「でへでへ」

ご「ところで、今日は朝っぱらからなんの用だい。かてーだのやわらけーだのの話をしに来たわけじゃあるまい。」

八「ご明察。あぶねえあぶねえ、いつものように何の話をしにきたか分からなくなって帰るところでしたよ。なにね、今日はせがれの結婚のことでね・・・」

ご「おたくのご子息がご結婚とな。こりゃめでたい。何か問題でもあるのかい?」

八「せがれが留学先で知り合った人と結婚するというんでね。」

ご「国際結婚かい、世の中だねえ。お相手はどこの国の人だい?」

八「あっし詳しいことはよく分からねえんだけれど、フィリピンの人って言ってたかな。」

ご「フィリピンって詳しいも何もフィリピンでしょうが。それで、何が問題なんだい?」

八「こないだね、せがれと一緒に役所に行ってみたんですよ。フィリピンの人と結婚するにはどうすればいいかって、いや、あっしじゃなくて、息子ですよ、いやあ恥ずかしい。」

ご「バカだね、おまえさんが恥ずかしがってどうするんだい。で、なんと言われた?」

八「この説明が分かるの分からねえのって、まるで外国語聞いているみてえでさ。それでも、何度か聞き返してだいたいは分かったんだけど、ひとつだけどうしても分からねえのがあってね。」

ご「なんだい?」

八「グビ、グビって。あっし正直に聞いたよ、『そのなんとかグビというのは何ですか?ビールと関係ありますか?果汁グビ?ガンダムの新しいキャラクターですか?』って。そしたらしまいにゃ役所の人も怒っちゃってさ。『だから何度も申し上げているようにコンインヨーケングビショーメーショです。それを大使館からもらってください』って。」

ご「ああ、何のことか分かったよ。」

八「さすがご隠居。やっぱりビールですか、グビっと生みたいな。」

ご「おまえさんね、結婚にビールがどうして関係するんだい。字に書いてやろう。『婚姻用件具備証明書』こう書くんだ。平ったくいうと、『わたしは独身で、本国の法律で結婚できる条件を満たしています』という証明だ。『独身証明書』と言ってもいいかもしらん。重婚を防ぐということもあるかもしらないね。」

八「なるほど。ある日突然、お国から『オレの妻を』なんて来られちゃかなわんからね。役所の人もご隠居みたいにやさしく教えてくれたらねえ。あっしだってあんなにグビグビ言わなくても済んだのにさ。」

ご「で、帰ってきて、腹立ち交じりにグビグビとやったんだろ?」

八「さすがご隠居、ご明察。」

おあとがよろしいようで。


とーます
※ちなみに、そのグビ証明書、こんな書類のようです。
uscons_doc.jpg

※ちょっと古い本ですが、この本に国際結婚の悲喜交々が記されていて、興味深いです。バイリンガル・ファミリー???国際結婚の妻たち(大沢周子)

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このページは、MIAが2016年2月29日 09:10に書いたブログ記事です。

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